TADANO社長挨拶

「目の前の闘い」と「時代との闘い」
二つの闘いを同時に制していかなければ
私たちの未来はありません。

株式会社タダノ
代表取締役社長 多田野 宏一

過去の成果と積み残した課題

創業100周年を迎えて

創立当時の(株)多田野鉄工所

会社設立は1948年8月24日ですが、創業者・多田野益雄が溶接業を立ち上げるべく高松から北海道・旭川へ旅立った1919年8月29日を創業の日と定めています。当時は海外において溶接技術が普及・発展し、日本にも導入されはじめた頃でした。創業者は、溶接の火花に魅了され、世の中のお役に立つことを確信し、北海道の地で事業を興しました。「創造・奉仕・協力」の精神を事業目的として引き継ぎ、今後も世の中のお役に立つものを提供したいと考えています。

当社の売上・利益の推移を見ると、80~90年代は日本国内の売上が大半を占めていました。しかしバブルが崩壊し、2002年前後は売上が半減しました。その後、海外売上高比率を高めようと注力し、2007年度にはピークを記録しましたが、リーマン・ショックが起きてわずか2年で需要は半減。2010年度には過去最大の赤字を計上してしまいました。需要サイクルも重なったとはいえ「会社というのは簡単に赤字になってしまうものだな」と痛感しました。

事業ポートフォリオを見直し、LE以外の事業を営む選択肢もあったのかもしれませんが、当社は敢えてLEを事業領域と定め、LE世界No.1、海外売上高比率80%、平時の営業利益率20%以上を目指すという長期目標を掲げ、取り組み続けています。「世界No.1」という高い目標から見れば、現状は「課題」だらけです。しかし、全てを一度に変える事はできないので、プライオリティを決めて取り組んでいます。

景気の波に左右されやすい特徴

油圧ショベルなどの建設機械と比較すると、建設用クレーンは耐久性に優れ、寿命も長く、中古車としての価格が高いのが特徴です。当社のお客様に関しては「壊れたから買い替える」というよりは、景気が良くなったら新しい製品に買い替え、景気が冷え込むと買い替えを待つ傾向にあるという投資行動があります。つまり建設用クレーンは、他の建設機械と比べて景気の波に左右されやすいという特徴があるのです。

もっと強い会社に

外部環境の影響を受けやすい企業の経営者として、「これは景気サイクルなのだから仕方ない。需要が回復すればまた黒字になる」と開き直る選択肢もあるのかもしれません。しかし私たちは、LEという分野で需要がアップダウンするという宿命を受け入れた上で、それをどう乗り越えるかが大きな課題だと考えています。「想定外」という言葉をよく聞きますが、想定外のせいにせず、それを織り込んでいける強い会社を作りたいです。

「強い会社」とは、景気の良いときも悪いときも「利益を出し続けられる」「人を育て続けられる」この2つを継続できる会社です。その中で当社は「安定的高収益企業」を目指す、具体的には「平時の営業利益率20%以上」を長期目標に掲げています。20%は高い目標ですが、外部環境が悪化してもそれを受け止めて利益を出し続けられるためには必要な数値だと考えています。

この考え方を具体的に表現したのが「4つの矢印」の話です。

4つの矢印とは

赤い矢印に集中

【青】は空の色であり、天候のごとく、複雑に変化する市場・需要動向や為替(外部環境)を指します。【赤】は情熱の色であり、自助努力=自分たちが頑張ればなんとかなる・コントロールできることを指します。【黄】は黄金の色であり、新工場建設やM&Aといった大きな投資を指します。3つの色を合わせると【黒】(利益の色)になります。

私たちは【青い矢印】に一喜一憂することなく、自分たちがコントロールできること【赤い矢印】に集中することが大切だと学びました。良いときも悪いときも弛まぬ努力を続け、毎期ごとに、結果を出しながら成長していく=【赤い矢印】が常に右上を向いている、そんな企業でありたいと考えています。よって、中期経営計画(17-19)の基本方針は「強い会社」に(赤い矢印に集中)と定めました。

過去の当社は、需要が高まれば業績も良化し、喜んでいました。需要が低下すれば業績も悪化し、慌てていました。業績の主要因は需要動向でありながら、ただ結果に一喜一憂を繰り返していました。そこから脱却するために「4つの矢印」、特に赤い矢印が大切です。また現代は予測しづらい世の中であり、常に青い矢印に対して予測・準備・対応することも大切ですね。いつ変化が起きてもいいように、常に両様の構えをしておきたいと考えています。

忘れてはいけないこと

いつも社員に伝えている「当社が絶対に忘れてはいけない3つの重要な出来事」があります。1つ目は1998年から2002年にかけての不況期に3回の人員整理をしたこと。2つ目は2004年のリコール問題、3つ目は過去4件発生した労災死亡事故です。

以降、当社は「人は財産である」という考えのもとで「人材」を「人財」と表記し、人財育成へさらなる注力をしています。また「私たちの製品は公道を走らせていただいている」との気づきを得て、CSR(企業の社会的責任)に力を入れるようになりました。そしてどんな時も絶対に譲れない価値観としてコアバリュー(安全・品質・効率)を定め、「安全」を全てに優先させるようになりました。

忘れてはいけないこと

将来の展望とリスク認識

複雑・高速・極端に変化する時代

今、世の中は歴史的に見て大きな不安定期に入っており、世界は複雑・高速・極端に変化する時代を迎えていると感じます。政治の世界でも主要先進国が指導力を失い、指導者不在の「Gゼロ」時代と表現する人もいます。政治の不安定さが、景気・経済にもつながっており、予測しがたい大災害も発生しています。また、技術の進化も急速で、世の中のあり方を大きく変えるような技術革新がもたらす、いわゆるエクスポネンシャルな(指数関数的な)変化が少しずつ見え始めています。変化はひとたび顕在化すると、劇的・爆発的に拡がり、社会を変えていきます。LE業界にもそのような変化が迫っていると考え、対応していく必要があります。

技術革新による大きな変化

油圧式トラッククレーン1号機OC-2型

当社は1955年に日本初の油圧式クレーンOC-2型を開発し、60年以上にわたって、基本的には「より重いものをより高く・遠くへ」運べる技術開発を進めてきました。2017年には「技術研究部門」を独立し、さらなる技術革新を進めています。

たとえば私たちの製品が活躍する「建設業界」では、特に日本においては、少子高齢化による生産年齢人口の減少、建設就業者の減少が大きな問題になりつつあります。クレーンを自由自在に操作できる熟練オペレータも減りつつある中で、技術革新によってクレーン操作をより簡略化・容易化・自動化することで現場の安全性を向上させる方向に行かなければなりません。将来的にはEVや自動運転可能な機械を世に送り出すことになるでしょう。

京都大学との調印式の様子

ただし、建設用クレーンは走行姿勢と作業姿勢の切り替えに始まり、ブームの長さや角度などによってさまざまに状態が変化(トランスフォーム)する機械です。機械の状態が変わっても転倒しない、安全で安心できる製品を送り出す必要があります。また建設現場の中で当社製品だけが技術的に突出しても意味がなく、全体の作業効率をどう引き上げるかの方が重要です。建設現場におけるクレーンの役割自体も考え直す時に来ているのではないか、という問題意識から、先般、京都大学との包括連携共同研究を発表しました。また他にも多くの大学・パートナーとAIなどの個別テーマでも研究に取り組んでいます。

「働きやすさ」と「伸び縮み力」

建設業界のみならず、どの会社にも少子高齢化の波が押し寄せています。これに対応するには、女性、シニア、外国人の活用を考えていく必要があります。当社は溶接業から発展したメーカーであるため、現状どうしても男性比率が高いです。ただ「溶接コンクール」などを見に行くと、女性でも優秀な成績を収めている方がいらっしゃいますね。これからは女性でも働ける、そして女性でも働きやすい職場づくりが大切だと考えています。現在建設中の香西新工場では空調も導入予定で、自動化の部分も増やしていきたいと考えています。また定年後も再雇用で活躍いただける方も増えていますし、外国人実習生の受け入れも増やしています。

再三、申し上げているように私たちの業界は需要のアップダウンが激しいので、柔軟性=「伸び縮み力」もキーワードになります。バランスを考えながら固定費を圧縮して変動費を増やすことが必要だということになります。

「働きやすさ」と「伸び縮み力」

重要テーマと打ち手

更なるグローバル化

グローバルパーツセンター

タダノは日本で生まれ、日本に育ててもらった企業です。しかしながら日本市場は今後、少子高齢化でマーケットがゆるやかに縮小していく可能性が高いと考えています。

当社では日本・欧州・北米を「基幹市場」と捉えて拡充を図るとともに、それ以外のマーケットを「戦略市場」と定め、販売・サービスのネットワーク拡大に努めています。この10年で、海外に17社のグループ会社を設立し、8箇所の拠点を拡大しました。また2016年には神戸に「グローバルパーツセンター」をオープンするなど、国内外で部品やサービスの供給も充実させつつあります。志度工場には「トレーニングセンター」を新設し、国内サービス工場の認定サービス員のレベルアップや、海外代理店・サービス員への技術教育・安全教育にも力を入れています。

更なるグローバル化のキーワードが「One Tadano」です。グループ全体を共通の価値観を持った1つのチームにしたいと考えています。また「Wide & Deep」ということで、市場を広げるとともに、各地のお客様のニーズを捉え、深掘りすることも大切だと考えています。

日本市場の売上を維持・向上させながら、海外売上高比率を高める。これが当面の方針です。長期目標に向けた中間目標として、2022年度に売上高3,000億円(日本1,000億円、海外2,000億円)、営業利益500億円の数値目標を設定しています。そのためにはオーガニックな成長とM&Aなどの二つの方法、地域的な拡大と商品の拡大と言った二つの方向が考えられますが、これらをバランスよく取り込んでいきたいと考えています。

耐性アップ

新工場建設状況を東から撮影(2018年10月撮影)

※高松中心部より西へ車で10分

新工場の概要
名称 香西工場
所在地 香川県高松市香西北町
敷地面積 約20万m2(約6万坪)
建物延床面積 約4.7万m2(約1.4万坪)
投資額 約215億円以上
社員数 約100人

※第1期工事(2017年11月~2019年7月)
 第2期工事は未定

需要の波に左右されない=耐性アップの6つの鍵として「ふところ深く」「身軽に」「柔軟性」「分散」「俊敏」「質の向上」のキーワードを設定しています。

具体的戦略の1つに「グローバル&フレキシブルものづくり」つまり「ものづくりの伸び縮み力」への取り組みとして新工場の設立があります。2014年度ならびに2015年度は過去最高の業績をあげることができましたが、一方でメイン工場である志度工場は当時フル稼働。今後さらにシェアを上げていくには、生産能力が不足する可能性もあります。

LE世界No.1の達成には、新工場が必要であると考え、高松市に20ヘクタールの用地を取得し、建設を進めています。まさに「黄色い矢印」として200億円以上を投資し、2019年夏の稼働を目指しています。立地も海沿いであり、海外向けの大型クレーンを直接神戸港などに運ぶことが可能になるのも大きなポイントです。

競争力強化

GR-1000N

LE世界No.1を目指すために、競合メーカーが10年かかっても追いつけないくらいの差をつけたい。そこでタダノグループのコアコンピタンス(=競争力の源泉)である「製品品質」と「(部品を含めた)サービス力」に、「商品力」と「中古車価値」を加えた「四拍子そろったメーカー」を目指しています。

具体的戦略の1つに「商品力強化」があります。日本向けラフテレーンクレーンの新シリーズ「CREVO G4」では合計10個以上のカメラを搭載し、周辺状況を常に認識できる「ワイドサイトビュー」や、クレーンの死角になりやすい左側方のバイク・自転車・人物を検知し、警報・ランプで注意を促す「ヒューマンアラートシステム」など新機能を搭載。お客様や社会の安全を強力にサポートしています。

単純に考えれば、製品の販売価格を上げて原価を下げれば、利益は高まります。しかし事はそう簡単ではありません。売価を上げて、競合との比較でシェアが落ちて、売上が落ちては意味がありません。いかに売価を維持・改善しながらシェアを高めていくか。お客様の目線で見れば、本当に世の中とお客様に「お役に立つ機械」を当社が提供できるかどうか、安全で安心して、しかも効率良く使っていただける付加価値を創造できるかどうかだと思います。ライバルとの比較の中で「四拍子そろったメーカー」になりたいと考えています。

「志」を持って、未来へ向かう

タダノにとっての成長とは

再度強調しますが、私たちは【青い矢印】に一喜一憂することなく、自分たちがコントロールできること【赤い矢印】に集中しよう、ということを中期経営計画の基本方針としています。「赤い矢印」に集中し続けることにより質的な成長の継続は可能であり、当社の成長の度合いは変動する「業績サイクルの波」を1つ前のものと見比べることで確認できると考えます。

具体的には、過去16年間の業績(売上と営業利益率)の推移をグラフで見ていただきたいのですが、2002年度から始まり、2007年度にピークを迎えた波は、リーマン・ショックを契機に急落しました。しかし10年度を底に、そこから始まった次のサイクルを見ると、後者のグラフにおける売上と営業利益率は、前者を大きく上回っています。これこそがタダノグループの成長を示しています。もちろん常に増収増益であれば言うことなしですが、「変動する波を1つ前より必ず上回ること」それこそが成長だと考えています。「青い矢印の影響で減収減益となってしまっても、質的な成長は可能だ」ということを、社員には言い聞かせています。

タダノにとっての成長とは

目の前の闘い・時代との闘い

これからは、「目の前の闘い」と「時代との闘い」、私たちはこの二つの闘いを同時に制していかなければいけません。まず「目の前の闘い」に打ち勝つ。毎期・毎月の目の前の闘いを制し続けなければ明日はありません。しかしその連続だけでは、今日を生き延びることはできるかもしれないが、未来はないのではないか、と思うのです。

IoTやAIの活用が急速に広がり、自動車やトラックは、内燃機関の搭載を止めて電気で動く方向に進もうとしています。技術的変化が世の中を変える、とても大きな変革期を迎えつつあります。この「時代との闘い」を制していかなければ私たちの未来はありません。

大切にしたい「志」

私たちは将来に向かって何をやりたいのか?と言いますと、長期的な利益成長ということになります。しかし、それはあくまでも目標であって目的ではありません。経営理念である「創造・奉仕・協力」を実現すること、それを永遠に求め続けることが当社の事業目的です。この経営理念やビジョン・コアバリューは不変のものです。

大切にしたい「志」

「社長がこう言ったから」あるいは「上司がこう言ったから」ということではなく、この不変の理念・コアバリュー、そしてその時々に会社が決定した長期目標・方針に忠実である会社でありたい、と考えています。上司が言ったことに対して、部下が「それはうちの方針に合っていませんよね?」と正しい方向に意見して議論できるような会社でありたいですね。

創業当時の「世の中のお役に立つものを提供したい」「事業を通じて世の中に貢献できる企業でありたい」という思いを大切にしていきたいと考えています。社内では昔から言われてきた「儲かると儲けるは違う」という話をしています。「儲ける」=利益を目的にすると会社は歪んでしまいます。ドラッカーは顧客の創造と説明しましたが、「世の中のお役に立つ、貢献することで、自然と儲かる会社」であることが大切。来年には創業100年を迎えますが、創業当時から続く「志」を今後も大切にしたいと感じています。


「2018年度統合報告書」より引用。統合報告書はこちらをご覧ください。