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Vol.3 航路果てなし

1997/03/01

先月の航海日誌に、人間は誰でも向上心と無限の可能性を持って生まれてきていると述べたが、現代では平均して人間の持つ可能性の25%しか顕在化できなくて、残余は埋もれたままこの世を去っていると或る学者は言っている。そのようにいくら向上心があってもそれが行動とならなければ何の進歩も向上も有り得ないし、せっかく与えられている無限の可能性もそれを引き出す努力をしなければ無能者に等しい。どうすれば私達の持つ向上心を発揮して可能性を引き出し、自分のものにすることができるのだろうか。それは私達の幼い頃の体験から容易に知ることができる。つまり私達は誰からも教わらないでも見事に自らの可能性を引き出してきたのだ。

例えば、這うだけしかできない爬虫類に等しい幼児でも、転倒するのがわかっていながら何度も立ち上がることに挑戦した後に漸く自立でき、続いて歩行の要領を会得して初めて歩く事が既得の能力となったのである。もし転ぶのが怖い、痛いのはごめんだと言って立つ事を拒んでいたならば、おそらく歩行能力さえも身につくことは難しかっただろう。

同様に、自転車に乗る能力も泳ぎの能力も同じ過程から体得し得ることがわかる。子供の時に、転ぶのが怖いからと自転車に乗ろうとしなかった人は、大人になっても乗れないものである。まして泳ぎにいたっては、それがはっきりわかる。畳の上でいかに上手にフォームができても、水に入って両足を水底から離し、何度も何度も水を飲まされるという苦しみを乗り越えたからこそ、私達は泳ぎの能力を自分のものにすることができたのである。水を飲むのはいやだ、沈むのが怖いからといって足を底に着けている間は確かに安全であるが、絶対に泳ぎの能力は身につかないのは当然である。

即ち人間は、困難と失敗の危険に立ち向かい自らの力でこれを克服した時にのみ、持てる潜在能力が顕在化して自分のものになるのである。このような体験学習の他に人間の進歩向上する道はないと言っても言い過ぎではない。言い換えると、安易な障害のない至れり尽せりの環境は人間を堕落させ、ダメにしてしまい、成長を妨げる元凶となる。むしろ安易な道よりも苦難の道こそが成長の原動力となり、悩みや苦しみ、困難や失敗の危険こそ私達を伸ばすために必要不可欠な要素となるのである。逆境こそ天から与えられた教師だと受けとれた時、私達の成長進歩が始まるのである。

振り返ってみると、逆境が私という人間を作ってくれたと思わずにはいられない。家が裕福でなかったため、大学は諦めざるを得なかった事が生涯学習の習慣を作ってくれた。また、青年時代に海軍で一年間撲られたおかげで、どんなことにもへこたれない逞しい精神力と肉体を作ることができた。3年有余の戦場で何度も死線を彷徨したおかげで、生きている事に感謝できるようになった。戦場で虫の混ざった麦飯を貪り食ったおかげで、毒でなければ何でも美味しく食べられるようになった。海軍の厳しい訓練のおかげで、シーマンシップを体得できて、規則正しい生活習慣が身についた。

シーマンシップとは3Sとも言われ、

Smart 動作が機敏でやる事に無駄がない。常に率先垂範すること。
Steady 着実を旨とし、常に整理整頓、何時でも出航可能であること。
Silent 必要以外喋らない。不言実行がサイレントネービー。

海軍ではシーマンシップを身に付けるとMMKになれるという。海軍用語でモテテ、モテテ、コマル。

などなど私の僅かな体験から、人間の可能性は無限にあると言わずにはいられない。また、それらを自ら引きだそうとしないのは誠に惜しいと思う。だから今でも、今度生まれ変わる時にも再び逆境の人生に生まれることを望んでいる。

航海日誌