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Vol.45 "本田宗一郎"

2000/09/01

今月の質問者:宮脇 伸行さん(商品企画室)~携帯電話がずいぶん身近になっています。緊急連絡、待ち合わせなど恩恵を受けています。ただ、中・高生などで所構わず使っているのは閉口します。

vol_45_img1.jpg最近見たテレビ番組でとても感銘を受けたものがあります。NHKの"プロジェクトX"というシリーズ番組ですが、特に「ホンダCVCCエンジン開発」は見応えがありました。世界で初めて米国マスキー法をクリアしたエンジンの開発にまつわるドキュメントです。その開発過程には、クリーンなエンジンを作りたいという技術者と、師と仰ぐ「おやじ(本田宗一郎)」との葛藤があります。ホンダの社員、特に技術者の殆どは「本田宗一郎」にあこがれて入社したと言われています。ズバリ人間"本田宗一郎"についてのご意見をお聞かせ願います。


多田野名誉相談役:苦労してるんだろうか、中堅幹部の白髪が目につく。私は苦労もしてないのに禿げている。

photo06.jpg

本田宗一郎の人間像についてはこれまで多くの本にも書かれていて、その特異な才能と気質は日本はもとより世界中の経営者やビジネスマンから敬愛されており、その感化を受けていることは言うまでもない。私の僅かな知識で彼の人間像を語るのは、畢竟、木を見て森を見ずになると思うが感じたままを述べる。

彼は僅か十六歳の頃、下町の一自動車修理工から身を起こし、現在の世界のホンダを築き上げたその強烈な個性と創造力には、もう文句無しに頭が下がる思いがする。その中には、私ごとき凡人が真似しようと思っても到底かなわない、彼の天性のようなものを感じるのである。

その一つは、今から35年位前、東京のあるホテルで開かれた都市銀行の頭取就任披露パーテー会場の出来事である。私も隅っこのテーブルに一人そっとついていたが、やがて型どおりの挨拶が終わり、三々五々立食スタイルのテーブルを囲んで談笑が始まった。私も食べようかなと思ってふと見ると、いつのまにかポロシャツに上着を着た紳士が私の隣に来ていて、しきりに料理を取って食っている。はて、どっかで見た顔だなと思って良く見ると、なんと、あの有名な本田宗一郎ではないか。中程のテーブルでは、頭取を囲んで日本の一流企業のトップが集まって話し合っているようだが、彼はそれには目もくれず黙々と食べていたと思ったら、知らぬ間に消えていなくなっていた。

私は是非ご挨拶しようと意気込んでいたのだが、彼の天衣無縫の振る舞いに圧倒されてしまって、遂にその機会を見つけ出せなかった事を、いまでも残念に思っている。他人の思惑など歯牙にもかけず、一刻の無駄な時間も容赦しない徹底した合理主義者の気概が表れていて、まさに「ゴーイング、マイウェイ」を地でいく感を深くした。

また何時だったか彼の講演を聞いた事があるが、その語り口は誠にさわやかで、江戸っ子のおじさんが喋っているようなザックバランな口調は、大会社の社長といった素振りは何処にも見えず、構えた所が少しもなくて思った事をズバリ、その歯に衣着せぬ語り口に聞き惚れてしまったことを覚えている。やはり、確とした信念を持った人は違うわい、この庶民的な明るさが社員からも尊敬され、おやじと呼ばれて親しまれ、慕われている所以ではないかと思った。

彼は生前、「俺の戒名、葬儀、社葬は不要」だと強く言い残したとのことで、彼の位牌もなければ葬儀も近親者のみで行い、僧の読経もなかったという。この死に様の見事さに、またまた私は頭の下がる思いがするのである。

航海日誌