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Vol.79 異文化コミュニケーション

2003/08/01

今月の質問者:大森 一也さん(Faun GmbH)~ドイツの第一印象は、何と言ってもビールが旨い。カラッとした気候が美味しさに拍車をかけ、ついつい飲みすぎてしまいます。

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タダノに入社してあっと言う間に5年が経ち、この4月からはFAUNに赴任して働いています。

初の海外赴任ということもあり、言葉、文化、習慣の違いに戸惑っています。YES・NOをハッキリと言う、言わないと何も伝わらない等、赴任前から分かっていたことも、実際に直面すると困惑してしまいます。どこまで相手の習慣に合わせるべきか、といったサジ加減も難しい所です。

とりあえず今は、文化、習慣の「どこが自分と違うのか?」をはっきり認識するところから始めています。

そこで最高顧問にアドバイスをお願いしたいのですが、文化、習慣の異なる人々と接する際に心がけるべきことはありますか?


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この問題は、私のような無経験者よりは、社内に数多くいる海外勤務経験者の方々がさらに適切なアドバイスを答えられると思う。だが、せっかくの機会なので、ピント外れになるかもしれないが私の考えを述べてみる。

かつて、英語が少しも話せない青年サービススタッフが海外の現地人経営のサービス工場での長期勤務の大役を果たし、人間的にも見違えるほど成長して帰国し、「また行かせてください」と報告したのを聞いて感動したことがある。また、異文化生活に適応できずノイローゼ気味だったが、その強烈な体験をバネにして、帰国後大きな成長をみせた社員もいる。

そういった海外勤務者のほとんどが遭遇する、カルチャーショックの共通点は、現地での生活が一段落すると、それまで続いていた興奮や新鮮な驚きが消え、その代わりに、自分の欲しいものがすぐ手に入らない、自分の意思がなかなか思うように伝えられない、テレビ・ラジオもさっぱりわからない、日本からのニュースがぱったり途切れ、現地での友人も出来そうに無い・・ということが重なって、惨めな気持ちになり、孤立感にさいなまれるようだ。

このような心理状況は、何も特別な現象でなく、異文化に適応する過程に起こる自然な症状であって、麻疹(はしか)と同じと考えてよいのではないか。また、このカルチャーショックは必ずしもネガティブなものでなく、自分を客観的に見つめる機会として個人の成長に大きく寄与する役割を持っていることを忘れてはならない。

異文化の生活に適応するには、あなたが考えるように、まず彼らの文化をよく理解し、私たちの文化との違いを認識することから始めるのがいいだろう。私にその違いを言い尽くすのは無理だが、気付いたことの一端を述べてみよう。

例えば、対人関係を決定付ける価値観の違いとは、欧米では各人の独立性と平等性に高い価値が置かれているが、日本では個人よりも集団を強調し、権威に服従し、特定の人間関係を大事にする傾向がある。

すなわち、欧米人は自己を最高度に開示しようとするが、日本人は他社との調和を第一に考えるあまり、自分の本心をそのまま出そうとしない。したがって、日本では"一匹狼"よりも"グループプレイヤー"が尊重され、人前で個人が意見を述べることが遠慮され、なるべく他者の意見とかけ離れないような、当たり障りの無いことを述べる傾向がある。そして、ものごとの「裏と表」を区別し、表は公的・形式面、裏はホンネの意味を含ませて使い分けることが多い。

さらに言えば、日本人の特質として、話す側に「遠慮」、聞く側に「察し」がある。自己開示欲が少なくても、言葉に依らないメッセージで意図を伝えられる、つまり"以心伝心"という得意技を備えている。言葉だけのコミュニケーションには否定的で、口数の多いのはかえって不信感を招きがちである。

それに反して、欧米人は積極的に自己を表現することを好み、言葉による表現活動を高く評価し、対人関係を確立する上で不可欠な要素であると考えている。彼らの意思表現は自己の能力を証明するためで、仮に仕事を失敗し会社に損害をかければ責任をとって辞め、また他でやりなおせば良いと考えている。

日本では終身雇用が長く続いたため、失敗しても解雇される心配は無いが、昇進の望みが断たれるから、成功の確信が出来るまでなかなか踏み込もうとしない。しかも、自分だけの責任にならぬよう多くの人に根回しをする(稟議制度はその一例である)。

そのほか言い尽くせないほど違いがあるが、そのギャップを埋め、心の通い合うコミュニケーションをとるためには、どうしても信頼関係を築くことが先決となる。いかに異文化であろうとも、人間には変わりがあろうはずがない。全ての人には、必ず理性と本能と魂が具備されている。信頼を得るには、この理性や本能に訴えるだけでなく、相手の魂に呼びかけねばならない。

しかし、魂が応えてくれるのは「愛」でしかない。「愛」とは"汝の欲することを他になせ"との金言のとおりである。「愛」の無い信頼は欺瞞でしかないからである。

海外勤務には、予想外のトラブルや困難が付き物だが、そのことを通して自分を見つめ、日本という国を外から眺める絶好の機会である。そう受けとめるならば、そこから得た未知の発見や内面的な気付きは、あなたの成長に大きく寄与することは間違い無い。

航海日誌