タダノ流・カガワコレクション

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食:おいり(西讃)

おいりと一緒にお嫁入り

ピンク、黄、オレンジ、白、水色、緑など、鮮やかな丸いボールがふわふわ踊っています。ここは、創業万延元年「山下おいり本舗」です。この店の3代目の店主、山下光信さんを訪ねました。

「おいり」は、婚礼用の餅菓子。直径1cm程で、中は空洞。ふっと息をふきかけるだけで、コロコロと転がりそうな程軽く、食べてみると、口に含むだけで溶けて、ふんわりとした食感が楽しめます。その後に、ほのかな甘さが口の中いっぱいに広がるのです。香川県でもとりわけ西讃地区の嫁入りの儀式のひとつとして、その際に集まってくださった方に配る風習があります。そこには、「心を丸く持って、まめまめしく働きます」という気持ちが込められているそうです。

「おいり」の始まりは江戸時代。天正15年(1587)、讃岐国丸亀城主に初代生駒親正公が任命され、親正公のお姫様がお輿入れをなさる際に、領内の人々がお祝いに五色の煎りもののあられを献上したところ、たいそう喜ばれたといいます。それ以来、丸亀をはじめとする香川県の西讃地区の婚礼には、おめでたい「煎りもの」であり、「嫁入り」の意味をあわせた「おいり」が定着したようです。

山下さんは言います。「おいり作りは、お菓子の中で一番難しいと言われているんですよ。手間暇の掛かる作業の繰り返しで、完成するまでに1週間はかかります。しかも、すべての過程に手間がかかって、難しい。最初から、もち米の生地の空気をきちんと抜いて、均等の厚さに延ばしておかないと、煎った時に丸くならなかったり、裂けてしまったりするんですよ。縁起の良いお菓子なので、こうなると商品にはなりません。」

また「『おいりがきれいだと、花嫁もきれい』と言われるものだから、一切手を抜けない」と話しながらも、この道48年(もうすぐ半世紀!)の山下さんの仕事を見ていると、美しささえ感じてしまう。さすが、匠の技!と感心していると、「毎日、データを取っているんだよ」と話してくれました。それは、その日の温湿度によって、材料の分量や乾燥時間を変えるからだそうです。「長年の勘なんて当てにならない。年をとると、感覚も鈍くなるからね」と謙虚に話す山下さん。この精神が生み出す「おいり」だから、美しく輝いて見えるのかもしれません。

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