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Vol.243 「挑戦と創造」

2022/07/01

いくら歳をとっても、やれるもんだよ。(多田野 弘)

今回の表題「挑戦と創造」は、私の人生を象徴しているように思えてならない。「挑戦」とは、ものごとに積極的に働きかけ戦いに挑むことをいい、「創造」とは、これまでにない新しい考えや物をつくり出すことをいう。私が挑んだのは、自分の可能性である。その挑戦で得た気付きが私の人生を創造していった。

 目標に挑戦する人は多いが、自分に挑む人はあまりいない。自分が思い通りにならないのが分かっているからだろう。にもかかわらず、私が自分の可能性に絶えず挑戦し続けたのは、戦場で魂の存在を知ったことによる。以来、不思議にも激しい弾雨の中を平気で行き来できるようになった。さらに凄いのは、死は忌まわしいことではなく、祖国に殉ずる尊いものだと価値観が一変したのである。

3年間、南方の最前線で毎日、生死の境を彷徨して過ごし、101歳の今もなお挑戦を止めないでいる。例を挙げると、93歳まで49年間、元日の海での寒中水泳を続けたのもそのひとつである。今でも我ながらよくやったと褒めてやりたい。なぜそのような馬鹿げたことをと思われるだろうが、これはやり終えた者にしか分からない。自分を統御・支配できた克己の喜びがあり、乗り越えた時の歓喜を知ったからだ。

戦後の自己への挑戦と創造は、今日の我が社の成長に大きく寄与している。親子3人で始めた零細企業が、製品の半数を輸出し得る世界企業にまで発展できたのである。その起点は、現在の主力製品である油圧式トラッククレーンを日本で最初につくりあげたことである。だが、どうしてそのような発想が生まれたのか。

要因の一つは、私の海軍で培った航空機整備に付随した僅かな油圧の技術を基に、無謀にも試作機づくりに挑戦したことにある。数カ月かけて、限りない試行錯誤と失敗を繰り返しながら、辛うじて完成させた。その幼稚だった試作機を今まで見たことがない便利な省力機械だと、荷役・建設業界が注目するのに時間は要らなかった。燎原の火のごとく需要が広まったことが、今日につながる成果を齎したといえる。今もなお、社員の創造性は止むことがなく、進歩成長を続けている。

話を元に戻す。最近、自己への挑戦意欲をさらに湧かす本に出会った。世界のベストセラーとなった、エリザベス・キューブラー=ロスの書『死、それは成長の最終段階』である。この表題を見るや、挑戦の意欲が湧いてくるのを覚えた。そこには「私たちの死に対する一般的概念の中に成長の見込みは含まれていないが、人間を成長に導くのは人生の他のいかなる力よりも、死が迫りつつあることと、死までの過程を経験することである」と述べられている。

私たちは食べて、寝て、働くだけでなく、それ以上の人生を送りたいと望んでいる。それは、成長することより人間的な本当の人間になることである。私はキューブラ・ロスの言葉に触れ、自分の人生に照らし合わせみて自信を深めた。近年感じていることをずばり現わしてくれていた。私は幸いにも、戦場で死までの過程を幾度も経験した中で、誰もが容易に悟ることが難しい魂の存在を知ることができた。それが今も私の人間的成長を促してくれている。

80歳から始めたこの語録も、今日まで22年間、毎月自らを振り返りながらつづってきた。人生の最終段階にある今こそ、人間的に成長する機会であると意欲を燃やしている。私の好きなことわざに、熊沢蕃山の「憂きことのなおこの上につもれかし限りある身の力ためさん」がある。残された人生は、さらなる挑戦と新しい自分を創造する絶好のチャンスであると考えている。

『高松木鶏クラブ 多田野 弘顧問談(2022年5月)より』

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