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Vol.4 信じるということ

1997/04/01

船というのは、板子1枚、下は地獄とも言われているように、沈む可能性を常に孕んでいる容器である。だから、バルブ1個の締め忘れ、ハッチ1枚の閉め忘れでも簡単に船は沈むのである。そこにシーマンシップの基本としてのステデイーが重要とされている所以がある。

船のクルーは、それぞれの持場と、守備すべき箇所の開閉を任されている。従って、乗組員は誰でも船を沈めることのできる自由が与えられているとも言える。その自由があるからこそ、そこから自発性が生まれ、自立心と自らに責任を持つことになるのである。

船長は、クルーにそれらの作業を一任していて、万一沈む事になっても別行動はとれない。クルー共々沈んでいくしかないのである。そこに運命を共にする信頼が生まれ、それがクルーの凡ての行動の規範となり、船上は一日として信頼なしには住めない別世界となるのである。

海上に限らず、人間信頼は非常に重要であって、実用的な価値がある。残念ながら、信頼を簡単に売り買いすることはできず、これを人為的に、技術的に取引きすることも不可能である。もし私達の住む世界に信頼が欠けていたならば、常に相手は、できればこちらを欺こうとするはずだという前提で、あらゆる契約に臨まなくてはならない。そして、相手からつけこまれないように、隙のない書類と相当時間をかけて作成しなければならないだろう。そうした手間と時間は、莫大な損失ともなりかねない。このように信頼は、私達に計り知れない、実用的な価値をもたらしてくれているのだ。

トヨタ自動車の一人当りの生産台数は、世界一を誇っているが、その秘密は看板方式ではなく、コンベアラインの組立工は、必要な時に誰でもコンベアをストップ出来る自由が与えられている、という人間信頼が可能にした、と言われている。

私も創業当時から、信頼なくして、企業の繁栄はないと考えて、30数年前に出勤簿、タイムレコーダーを廃止して、自主、自発的な勤務のできる、現在の社風を作り出す事ができたが、凡て人間信頼のなせる業であることは、言うまでもない。

私の言う信頼の定義とは
1.信じた相手から如何なる報いが返ってこようとも、それを受容できる腹が出来た時、信じたといえる。
2.人は信じられたら、それに応えずにはおれないのが、人間である。
3.信頼は、こちらの信じた大きさだけ、相手から信じて貰える。
4.目に見えぬ人の心を信じたその報いは、その心が見えてくる。それが行動となって現れてくる。

信頼は、知識や方法論、技術では生まれない。又、自然科学のように、原理原則を並べ拡げる学問からは得られない。常に精神修養につとめ、体験による学習からのみ、体験し得るものであって、一生を通じて探究せねばならない、これこそ私達が求めてやまない知恵である。

又、この知恵が人間の値打ちを決める最終的な要件である。知識が多い事は、決して人間の値打ちを決める要件とはならない。

航海日誌