検索

Vol.282 「日用心法」

2025/10/01

いくら歳をとっても、やれるもんだよ。(多田野 弘)

日用心法とは、私達が日常生活を送る上で心を工夫し、よき生活態度を心がけているか、ということである。なぜなら、毎日の過ごし方が習慣となり、人格を形成すると共に、自らの人生をつくっていくからだ。ならばこの際、戦後80年の日々をどう過ごしてきたかを総点検してみたい。

終戦によって、命を失う恐怖が無くなり、解放された自由な空気は、天国のようだった。南の戦場で3年間、明日の命が分からない日を過ごした私は、生きているのが奇跡のように感じられた。

故に、緊張感がない戦後の雰囲気に何かもの足りなさを感じていた。それが、かつて青年期に過ごした海軍の、キビキビした生活を懐かしく思い出させた。5分前の精神とシーマンシップの教えである。

いうまでもなく、何事をするにも、5分前に準備しておけという教えだ。兵舎のスピーカーも「○○はじめ・5分前」と放送し続けていた。もう一つのシーマンシップとは、「スマ―トで、眼先が利いて几帳面、負けじ魂、これぞ船乗り」である。スマートとは、世にいう、「かっこいい」ことではない。動作が機敏で、やることに無駄がなく、他に迷惑をかけないことである。104歳の今でも、暗唱できるほどである。

戦後しばらくして、かつて海軍の規律ある生活習慣が懐かしく思え、再現してみようと考えた。その手始めにしたのが、アラーム無しの5時起床であった。この簡単なことさえできないようでは、どんなよい計画も駄目だと思ったからだ。ところが、思わぬ好結果をもたらした。早起きした日は不思議に、1日中シャキッとした気持ちで過ごせるようになった。この早起きは40歳から始めたが、104歳の今日まで続いている。

 

さらに、起床するや否や、外へ駆け出していった。ジョギングが始まったのである。その快適さは継続の原動力になったのはいうまでもない。40歳から93歳まで続いたが、その間、日本各地で開催されるマラソン大会でハーフマラソンに参加した。また、ジョギング後の真冬も行っていた冷水浴に加え、元旦の朝、海での寒中水泳を49年間、93歳まで続けた。この行事の度に、「今年は、もうもらったぞ」と、新年を先取りしたような気分になっていた。

60歳の頃から週末には、40フィートのヨットで海に出て行った。連休には和歌山の白浜や九州の臼杵まで出かけた。その時、終戦までいた201空基地富高へ行こうとしたが、強風のため引き返した。引き返す決断にも勇気が必要なのを知った。40年間スリルとロマンに満ちたヨットは、体力の限界を感じて昨年手放した。寂寥の感も多々あるが、私の人生をこれほど豊かにし、充実したものにしてくれたものは他にない。やはり俺は海の男だった。

このような戦後の規律ある生活習慣が私の日用心法といえる。その心がけが、私のたくましい意志・豊かな創造力・燃える情熱・安易を捨てるチャレンジ精神をつくった。歳を重ねても心が老いないのは、それらが大きく影響したといえる。

『高松木鶏クラブ 多田野 弘顧問談(2025年8月)より』

航海日誌