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Lifting your dreams
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Vol.128 マリンスポーツを通じて自然から何を学んだか

2010/07/01

本日(7月1日)は全国各地で海開きが行われ、マリンスポーツが楽しみな季節になりました。名誉顧問も遠方へクルージングされる機会が増え、まぶしい日差しのもと海上を走る爽快さ、海の雄大さ、素晴らしさを感じていらっしゃることと思います。 ところで、最近地球温暖化が問題になっていますが、マリンスポーツを通して私たち現代人が自然から学ぶことはあるでしょうか。
(質問者:航海日誌愛読者)

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私がヨットを通じて海から学んだことは数え切れないほどある。中でも私に大きな影響を与えたのは*「シ-マンシップ」である。それは私たちの日常生活では得ることの出来ない貴重なものであった。「スマ-トで、目先が利いて几帳面、負けじ魂これぞ船乗り」という格言で、船を操るものの心得として言い伝えられ、これを身に付けて始めて一人前の船乗りとして認められるのだと言われてきた。

スマ-トとは、普通皆が考えている姿かたちの良いことをいうのではない。動作が機敏でやることに無駄がなく合理的で、他に迷惑をかけないことをいうのだが、結果的にそれが格好良く、いわゆるスマ-トなのである。機敏な動作は素早いだけでなく「ステディ(着実)」でなければ意味がない。ネジ一個、バルブ一個の締め忘れが大事故の因となり、船を沈めることにもつながるからである。そのためには、船の用具、ロ-プ、保全用品の所在が確定してなければ、すぐ役に立たない。そこで否が応でも整理整頓しなければならなくなる。

整理整頓の秘訣は「捨てること」にあることを学んだ。捨てるのを怠ると、狭い船内は忽ち不用品の山と化すから、自然と整理整頓を心がけるようになる。そのためには、不用品は見つけ次第に捨てることが最大の貢献となる。私たちの家の中も不要不急の品々に占領されて、人間がその間に小さくなって住んでいるのが現状ではないだろうか。もったいない、まだ使用に耐えるというので、とりあえず保管しているのが溜まり溜まって、身の置き所に苦しむ結果を招いている。

ヨットの内部は狭隘で無駄なものは何一つ置けないので、航海中は最小限の簡素な生活を強いられる。そのシンプルな生活がむしろ私の野性を蘇らせてくれている。一例を挙げると、ヨットに暖冷房の設備がないことが、自然の中での生活に耐える素地を作ってくれる。長期の航海に備えての水と食料は限られており、次の寄港地につくまでは補給出来ない。天候次第で到着できると決まっているわけではない。そうした想定外の背景から、コップ一杯の水さえも貴重品として扱うようになり、限られた条件の中で生き抜く、サバイバルの精神を身に付けることができた。

三度の食事も限られた食材で作ったものになるが、それがまた美味しいのである。天候が急変し、荒天になると船は木の葉のように揺れる。「この向きだと一食抜きだな」と覚悟していたら、大きな握り飯が配られた。そのときの感激と旨さは忘れることが出来ない。いかなる粗食もありがたく食するようになったのはこれらが因をなしている。空腹が最高のスパイスであることを身をもって知った。

目先が利くとは、海上は陸上と違って一刻も同じ状況であることはないので、状況の変化を知って慌てて対応したのでは間に合わない。ヨットは前に進むことしか出来ないブレ-キの利かない乗り物だから、次に何が起こるか変化を前もって察知し、それに対応できる準備が整ってなければならない。目先が利くことによって「五分前の精神」が養われ、スタンバイの行動となって現れる。

一旦海に出た以上、例えどんな悪条件に遭遇しても、他に援助を期待できない。独力で対処し、解決する以外にないのが海の掟である。そこに、船を操るスキルと、強い精神力と体力が必要となる。その強い精神力のことを「負けじ魂」と称している。即ち他に勝つことではなく自分に克つこと、安逸に流れようとする自分に鞭打つもう一人の自分がいることをいう。さらに、独力で対処するには相応の体力が求められ、身体の鍛錬は欠かすことが出来ない。私が今でも齢に不似合いな鍛え方をしているのはそのためでもある。

そんなに精神力や体力を求められたり、窮屈で不自由なヨットで何故海へ出ていくのかと思われるだろう。ところが、その思うようにならない危険も伴う海を、自力で乗り越えたときの達成感と自信は、何にも変えられない喜びであり、苦難が即、喜びなのだ。その快感が忘れられず、また海に出かけたくなるのである。なんと言おうと、ヨットと海から学んだことは私生活にも及んで、私の人生を素晴らしいものにしてくれているのは間違いない。

*「スマートで、目先が利いて、几帳面、負けじ魂、これぞ船乗り」
シーマンシップ(Seamanship:船乗りとしての技能&船乗りとしての資質・心がけ)を伝える言葉として、大日本帝国海軍から現在の海上自衛隊まで受け継がれているそうです。

航海日誌