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Vol.134 私が見た国の文化の違い

2011/07/05

若い頃から世界遺産に関心を持っています。世界遺産をテーマにしたテレビ番組などは欠かさずに見て、いつか訪れたいと夢を膨らませています。 そのようなテレビ番組では世界遺産の紹介だけでなく、その国の文化や風習も垣間見ることができて大変興味深いです。  弘名誉顧問は今までにさまざまな国を訪問されたことと思います。その際、国ごとに文化の違いのようなものを感じられたと思いますが、強く印象に残っていらっしゃることはございますか。それはどんなことでしょうか。
(質問者:航海日誌愛読者)

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文化人類学に掲げるようなテ-マだが、一経営者の感じた日本人の特質、西欧人との違いを思ったまま述べてみる。各国の文化を知っているはずもなく、比較するほどの知識も持ち合わせていないので、正鵠(せいこく)を欠いていることをお断りしておく。

まず、日本人と西欧人との間には、労働に対する意識の違いがあるように思う。日本人は概して勤労意欲が強いことである。日本民族は古来、稲作を主とした農耕民族として、自然を相手に働き続けることでその年の収穫を得てきた。日本人にはその勤労の体質を受け継いでいるのではないかと思う。さらに協調心が強いことである。稲作は四季に合わせ一斉に行う必要があるため、協同でやることを当然とする村意識が生まれ、お互いに助け合う互助の精神が培われている。

この勤労の体質と協調の精神が日本独特の終身雇用制や、年功序列制度を生み出したと思われる。敗戦後の日本が半世紀足らずで、世界第二の経済大国になったのは、日本人の持つ勤労精神と、協調する集団主義であると世界各国から指摘された。一方、集団では強大な力を発揮するが、個々になると強さを発揮できず、独立心に欠け孤独に弱いとも言われる。その点、西欧民族は集団に対する協調心は強いと思わないが、個に強い。元来、狩猟民族の体質を引き継いでいるためだろうか開拓精心が旺盛で、個人主義が生まれた主因だと思う。

日本人の勤労を尊ぶ習慣は働くことを天性と考え、人間に休息が必要であるのと同様に、労働は自然の営みであると考えるところから生まれている。ところが西欧人の労働観は、アダムとイブの神話から、罪の償いとして課せられた賤しい行為と考えているふしがある。奴隷制度が生まれたのも、ハッピ-リタイヤ-を待ち望むのもむべなるかなと思う。また働くことは契約による一つの商行為であり、好条件で転職する人ほど有能とされ、不適任者の馘首(かくしゅ)も比較的容易に行われている。この日欧の労働観の違いは双方の長い歴史と習慣によって作られた精神文化であって、私たちの労働観と和の精神は誇りにできるが、西欧に見習うべき点も多くある。それは、開拓精神であり、孤独に強く、いつでも群れから離れられる個の強さを持つことである。

今回の大震災で日本人がとった秩序ある行動は、相互に助け合う和の精神の表れであり、世界のどの国も真似のできない日本独特の精神文化である。日本を訪れる外国人が一様に驚くのは、街に自動販売機が置かれていることである。他国ではすぐ壊され、金が盗まれるのが常であるが、日本ではそれが起こらない。それが外国人にとって非常な驚きに映るのである。他の国々では概して対人警戒、人間不信を前提に社会が動いているように感じている。その意味では日本は例外的な存在で、人々は先ず他人を信じるのが普通の生活感覚といえる。このような人間同士の相互信頼が基調となっている文化は日本の大きな強みとなっている。

このような日本人の精神構造は欧米人から見ると、不思議な人種に映るらしい。しかし何となく安心できるように思えるようである。第二次世界大戦敗戦後の荒廃から立ち上がって世界第二の経済大国になった国。それが欧米人にとって一番の驚きなのだ。日本人が作る物はどれも、品質が優れていて、精緻であるだけでなく、信頼できる。外国人たちにとって日本という国は不思議な国なのである。その不思議な国日本はやはり、日本の歴史と文化が創りだしたものである。欧米人と全く違った自然観、宗教観、価値観によるものと考えられる。  日本人は古来、稲作民族として、人は大自然の恵みによって生かされていると考えてきた。それが自然への感謝の気持ちとなって「もったいない」という感覚を持つようになった。大自然に対して感謝の気持ちを持ち続けてきた価値観が「もったいない」精神の根底に流れているのである。私たちは、「米一粒でも残してはいけない」と教えられて育ったが、欧米人には理解できないらしい。「もったいない」は日本人にしか通用しない独特な言葉であり、「まだ使用に耐えるから今捨てるのは惜しい、再利用できなくなったら捨てればよい」という意味であるが、これを欧米人がそのまま英訳して「夫は私にとって『もったいない』ぐらいの人よ」と言えば、おそらく夫は逆上するだろう。

アメリカの人類学者、東大の初代動物学教授を務めたエドワ-ド・モ-ス氏の見聞記に「驚くことに、また残念ながら、自分の国で道徳的教訓の重荷になっている人徳や品性を、日本人は生まれながらに持っているらしい」「人々が正直である国にいることは実に気持ちが良い。部屋に錠をかけないでも安心して出かけられる」とある。また「自然と物に対する愛、あっさりして魅力に富む芸術、挙動の礼儀正さ、他人への思いやりなど、これらの特質は恵まれた階級だけでなく貧しい人も備えている」と述べている。

日本人が持つ「和」の精神は「私」を抑え「公」を優先させること、すなわち「没我」でなければならない。突出したり一匹狼の行動は嫌われ、能力主義よりも序列が重んじられ、年功序列制度が生まれる土台にもなっている。従って日本の社会では独裁者が生まれる余地が少なく、全員合意が重視される。「和」を保つためには、常に相手の立場に立って考えなければならないので「思いやり」が至上とされ、自律、冷静、秩序が日本人社会の日常となった、と記されている。 「経営の神様」として知られているドラッカ-も、日本について「凡ての文明国に中で、日本だけは目よりも心で接することによって理解できる国である。日本文化の中核はやはり美であり、日本人の魂を鍛えたのも美であろう。四季の自然の変化が人々に感銘を与え、豊かな感情を育み、そこから生まれた日本人の誠実さ、潔さに美を感じる」と述べている。

近年の日本は、「世界で最も住みたい国」のランキングでは常にカナダとトップを争っている。反日国家の中国や韓国でさえ、日本への密入国や永住、帰化希望者が多く、両国ではそれぞれの数がトップとなっている。国際結婚も両国では日本人相手がトップであり、上海女性の結婚相手に関する調査(2005年白書)によると、国際結婚相手としては第一位が日本人(39・6%)で、第二位のアメリカ人(9・1%)を大きく引き離している。さらにイギリスのBBCが20005年から世界34カ国を対象に行った「世界への国際貢献度調査」では、日本は3年連続トップである。日本人は自分たちが世界から高い評価を受けていることを殆んど知らない。それを外国人が不思議に思っている。

私たちの持つ文化は、長い間人間集団に培われた、共通の物心両面の歴史的遺産であり、地理的条件による風俗、習慣、価値観、宗教、芸術などに反映されている。国、民族、人種が違えばそれぞれの文化も異なっているが、その違いを知ることによって自らの文化を知ることができる。他に誇れるものと、他から学ぶべきことが分かってくる。私は、子が母を無条件で慕うからではないが、私が生を受けた母国日本を愛して止まない一人である。それゆえ日本人の持つこの素晴らしい文化を再認識するとともに、長く後世に伝えなければならないと思う。

航海日誌