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Lifting your dreams
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Vol.136 本から学ぶ

2011/11/01

「燈火親しむの候」は10月に使う時候の挨拶として有名です。秋の夜長、日頃忙しく過ごしている方も、この季節は本をひもといているのではないでしょうか。
 弘名誉顧問は大の読書家でいらっしゃいますが、本を選ぶ時の基準は何でしょうか。また、本にまつわるエピソードがあれば併せてご披露下さい。
(質問者:航海日誌愛読者)

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良い本との出会いは縁だと思う。周りが「素晴らしい本だよ」と褒めていたりベストセラ-だと宣伝していても、自分に向いていないと思ったら読む気がしない。何かを知りたいと強く求めた時、それにぴたりの本に巡り合えると宝の山を得たような喜びを覚える。わくわくして貪るように読み、時が経つのも忘れてしまう。しかし、そのようにめぐり合える本は何十冊の中の一冊であることが多い。また、いい本一冊だけを選ぼうとすると、時間と手間がかかり過ぎて徒労に終わることが多い。そこで私はいつも、昔取ったきねづかで試験問題に「網を掛ける」つもりで数冊購入することにしている。

読んでみて気に入った箇所には朱線を引き、メモを取って書棚に納め、時々取り出して読むのを楽しみにしている。メモはまとめてパソコンに収録し、プリントして、考えたり文を作る時の参考にしている。だから書棚にある本は朱線だらけで汚れているが、朱線がないのは新品同様でもすべて廃棄処分にしている。買った本だからといって全部読む必要は無い、必要な部分だけ読み、他は読まずに捨てることが多い。

図書館で借りるという手もあるが、借りた本が気に入ればすかさず購入して、じっくり噛みしめて読むことにしている。「良い本があったら教えて」とよく言われるが、本に対する興味は各人各様で、よほど同じ価値観でない限り教えないことにしている。良い本を手に入れたいと思うなら、お金と手間・暇を惜しんではならない。また、借りた本は普通注力して読まないが、身銭を切って苦労して入手した本は余すところなく読むだろう。役に立たない本を買うのは無駄かと思われるが、その無駄があるからこそ貴重な本に巡り合えるのだと思えば安い投資である。自分にとって良書は、金に変えられないほど貴重なものだと思う。

私のこれまでの体験から、良い本に出会うには、何かを知りたいという強く求めるものがなければならない。また、自分の持つ人生観や価値観によっても選ぶ本の範囲が絞られて、良い本に出合う確率が高くなる。私は新聞その他の書評を見て選ぶ事もあるが、読んで良かったと思う本の著者が書いたものを続けて選ぶことが多い。少しでも暇があれば本を読み、カラオケ、マ-ジャン、ゴルフはしないし、テレビはニュ-スとスポ-ツ番組しか見ないから世事に疎い。特に最近の若者同士のカタカナ新語はチンプンカンプンである。

私には、天から授かったと思えるような貴重な本がある。その一つがピ-タ-・F・ドラッカ-の「現代の経営」である。50年ほど前、わが社が町工場の規模だった頃、玩具に等しい幼稚な油圧式クレ-ンを作ってみた。それが戦後の復興景気に合致したのか、思いがけなく全国各地から注文がくるようになった。すぐさま増産するべく資金を借り入れ、設備と人員を増強したが、思うように生産できず混乱するばかりだった。その原因がどこにあるかを考えたが、解決策が見つからず日夜悩み続けた。

悩んだ挙句の果て、万策尽きたと思った時「ふっ」と頭に浮かんだのは「お前は何のために経営しているのか」という問いかけであった。同時に、その答えを自分が持っていないことに気付いて愕然とした。なんという愚かな自分であるかを思い知らされた。恥ずかしながら改めて、企業は何のために経営するべきかを模索し始めた。各所のセミナ-を聞いたり、経営の書を読み漁ってみたが、私の探し求めるものは見つからなかった。ところが、たまたま立ち寄った書店で目に飛び込んだのが、新刊の「現代の経営」であった。

持ち帰って貪るように読むにつれ、まさに私が求めて止まなかった企業経営の理念が、明快に示されているではないか。その一言一句が、干天の慈雨のように身に沁み込んだのは言うまでもない。「企業経営の目的は、価値を創造することによって社会に貢献することである。利益はあくまでもその結果であって、貢献度を示す尺度に過ぎない。もしも経営の目的を利益の追求とするならば、その企業に関わる人達(顧客、取引先、従業員)は利益追求の手段となるため、企業は衰退するしかない。この経営理念は規模の大小に関わらず、世界の如何なる企業にも通じる経営の哲学である」。私はこの理念に惚れ込んでしまった。この考え方で経営するなら、たとえどんな結果になろうとも悔いが無いと納得し、腑に落ち、胎に入った。そこで生まれたのが「創造・奉仕・協力」の社是である。

今でも、あの時悩み苦しんだからこそ良書に巡り会えたのであって、同時にそれが会社発展の基盤になったかと思う。この経営哲学は同時に、私の人生哲学にも筋金を入れてくれた。それは、人生の目的も、企業の目的と同様に社会に貢献奉仕することであって、どれだけ社会に役立っているか、その貢献度に応じて社会から評価され、地位・報酬が与えられるのである。企業もそれに関わる人も、根底に流れる哲学が調和・統一されて始めて、どこを突いても破れない信念が作られる。良書は心の糧となるだけでなく、人生観・社会観を作る強力な助言者になってくれる。

航海日誌