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Lifting your dreams
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Vol.180 人を育てる

2017/03/01

いくら歳をとっても、やれるもんだよ。(多田野 弘)

致知誌は「人を育てる」というテーマを、この15年間で3回取り上げており、人を育てることがいかに重要であり、難しいかを物語っているといえる。「人を育てる」については、平成14年2月から4回にわたって、私の考えを話しており、8年後の平成22年9月にも、人を育てるリーダーはどうあるべきかを述べている。今回は、これまでの内容を含めて総括してみたい。

株式会社タダノは、戦後間もない昭和23年8月、資本金50万円、社員数7名、名前だけの株式会社多田野鉄工所として出発した。68年後の今日、資本金130億円、連結社員数3400名余り、売り上げの半分を輸出が占めるまでの世界的企業に成長発展してきた。これは、ひとえに社員が育ってくれたからだといっても過言ではない。

それらを振り返ってみると、人が育つには、一(いつ)に指導者(リーダー)の資質に掛かっているといえる。その最も重要と思われる資質の第一は、リーダーの持つ人間観である。第二は、リーダーの人間的魅力であり、第三は、言行一致の率先垂範(そっせんすいはん)する行動力である。

第一に重要な資質として、人を育てるのになぜリーダーの人間観が必要なのかは、人間の本質が科学的・合理的ではないことがその要点である。リーダーが集団の目標を達成するには、主として科学的・合理的手法によらなければならない。ところが、それに立ち向かう人間は、単なる戦力や労働力ではなく、心とか感情、生身の身体を持った個人であって、科学的・合理的に律するわけにはいかない。

人間は理屈どおりに生きる生き物ではない。たとえどんなに高度な知識や労務管理技術をもってしても、外部から人の心を操作し、コントロールすることは不可能といえる。それがリーダーに正しい人間観が必要とされるゆえんである。

人は誰でも、他からの強制や指示を好まない。それは自分の行動の自由が阻まれるからだ。むしろ自主、自発的な行動を好み、自分の立てた目標のためには、自らを鞭打ってそれを成し遂げようとする。それが困難であるほど、達成したときの喜びが大きく、生き甲斐が生まれ、さらに可能性にチャレンジする気持ちが湧いてくるのである。

同時に、信じられたらそれに応えずにいられないのが人間である。「信じる」ことは、目に見えぬ人の心と心を結び合う大きな力を持っており、理屈では考えられない不思議な結果や奇跡を生むのである。かつて「タイムレコーダー廃止」が、わが社の遅刻皆無の伝統を生み、自主的な風土となっているのを見ても分かる。

「信じる」とは、相手の行動に自由を与えることである。人は自由を与えられると、自分の行動を選ぶ必要に迫られ、自主、自発的な行動が生まれ、その行動に責任を持つようになる。自由を与えるとは、報いを考えることなく、自分の運命を相手に委ねるという人間信頼であり、与えるだけしか考えない愛の行為である。

第二にリーダーに必要な資質は、リーダーが持つべき人間的魅力とは何か、それをどう位置付けているかである。人間の魅力で大きな比重を持つのが人徳である。才能や力量がいかに優れていても、人徳がなければすべて帳消しになる。人徳が備わって初めてリーダーとしての人間的魅力となり、具備すべき最大の資質となる。

人間的魅力というのは、その人が醸し出す何かに心を打たれ、私たちを夢中にさせるものである。「ああいう人になりたいなぁ」と思わせるものを持っており、その人から地位や学歴、財力や容姿などを取り払った、裸のままの人間でも付いて行きたくなるような人をいう。

それは、自分の生き方や人生観に哲学を持っており、何か人間的な深さが感じられる人といえる。それらが信念のある動作や振る舞いに現れ、心に染み入るような感動を覚えさせてくれる。一方、大変優れているけれど完璧ではなく、意図しない隙もあり、それが魅力となっている人、私の理想とする人間像である。

第三にリーダーの持つべき資質は、言行一致した率先垂範である。海軍の伝統になっている、山本五十六大将の「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、ほめてやらねば、人は動かじ」という言葉がある。まず自分がやって見せ、自分がやれないことを人にさせるなと、率先垂範を見事に表現している。リーダーはよき師でなければならない。よき師とは、自分の考え方や生き方を、言葉で示すだけでなく、具体的に感じ取れるよう、自分の行動で範を垂れることである。つまり、リーダーは自分の具体的な行動で部下をモチベート出来る人である。部下の自発性を喚起出来ないのは、リーダーとしては失格だと言える。

かつて、タイムレコーダー廃止で遅刻皆無になった頃、一方で病気欠勤者2~3名が常時いることに気付いた。会社全員の健康づくりの必要性を感じて、体育館を設け、トレーニング器具を完備し、健康増進を奨励した。私は毎朝7時に出勤し、体育館に通うのを習慣とした。さらに、もっと健康になってもらいたいと、「禁煙と献血」運動を展開した。屋内はすべて禁煙にし、喫煙室を数か所設置すると同時に、「苦しまずに煙草がやめられる方法」と題して、私の禁煙体験を説いて回った。

献血についても、全社員に「献血によって心身の健康を証明しようではないか」と呼びかけた。私も率先して、60歳から74歳に至るまで献血に参加した。実は、後の10年間は年齢を偽っての献血であった。率先垂範が功を奏したのだろうか、献血率が4割近くになり、総理大臣賞を受けるまでになった。この健康と奉仕に目覚めた自主性ある社員がいることが、私の大きな誇りである。

半世紀も前、自主的に働く人になってもらいたい思いから始めた、「タイムレコーダー廃止」に見事に応えてくれて、それが社員の自主性を作る土台になったといえる。次々に行った施策の中で、献血率4割近くという驚異的な記録が示す、奇跡に近い出来事は、言葉や理屈で表すことができない。

「人を育てる」ことは、人間信頼という精神的人間関係が齎(もたら)したものであり、その霊妙なる関係は、運命を委ねる命懸けの決断ができたときしか生まれない。人を育てることは言い換えると、自分を育てることであり、一生を通じての課題でもある。

『高松木鶏クラブ 多田野 弘顧問談(2016年12月)より』

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