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Vol.212 「後世に伝えたいこと」

2019/11/05

いくら歳をとっても、やれるもんだよ。(多田野 弘)

人は誰しも真摯に歩んでいく中で、大切なことに気付き、後世に伝えたいことがあると思う。私は、日本人としての誇りを持つことと、主体的な人間であることの2つを伝えたい。なぜそのような考えを持つに至ったか。1つは次の記事を見たからである。

「もし戦争が起こったら国のために戦うか」という問いに対する答えは、「はい」の比率が日本では15.6%と、公表された36カ国中、最低だった。逆に、その比率が高い国は、2006年の調査では、スウェーデン80.1%、中国75.7%、韓国71.7%などが目立った。この比率は愛国心を評価する1つの尺度になることは間違いない。世界33カ国中、最も低い国が日本だった。

戦前日本には徴兵制があり、それを逃れたいと思う人も多くいた。私は逆に1年早く海軍に志願し、入隊後も戦地へ出してくれと上申した。そのため3年猶予、南の戦場で戦い、フィリピンで特攻作戦に参加するなど、命と真剣に対峙してきた。

この戦争で米軍が最も恐れたのは日本人の戦いぶりである。パイロットごと敵艦に突入する特攻戦法は、米国人を唖然とさせ、日本人のこの理解不能な戦い方に対して,敬意さえ払われたのである。フランスの初代文化大臣アンドレ・マルローは「私は、祖国と家族を思う一念から、恐怖も生への執着も乗り越えて、潔く敵艦に体当たりした特別攻撃隊員の精神と行為の中に、男の崇高な美学を見るのである」と語った。また、米軍の中にも、マルコム・マクガバン海軍大尉のように「我々の空母の飛行甲板を貫いたこの男は、私より立派だ。私には、到底このようなことはできない」と言って特攻隊員に敬意を表した者もいた。

日本が誇りとする特筆すべきは、天皇陛下の存在である。日本軍が次第に戦線の後退を余儀なくされ、米軍が沖縄に上陸し、本土への上陸が懸念されていた。日本の上層部では、戦争の終結か、継続かで議論が紛糾し、収拾が困難になっていたときである。陛下の「これ以上、国民を失うことは避けねばならない。戦争を終結せねばならない」とのお言葉で終戦が決まった、と伝えられている。

さらに、終戦直後の昭和天皇とマッカーサー元帥との会見である。マッカーサーは最初、往々にして敗戦国のリーダーがそうであるように、日本の天皇も少しでも自分の立場が良くなるようにと、頼みに来るだろうと考えていた。ところが、会見に臨まれた陛下は、マッカーサーに対して臆することなく、「この戦争の責任はすべて私にある。だから、私の一身はどうなろうと構わない。この上は、どうか国民が生活に困らぬよう、連合国の援助をお願いしたい」と毅然として言われた。

これを聞いたマッカーサーは非常に感激し、「陛下の勇気に骨の髄まで揺り動かされた」と回想録に書いている。そして、陛下がお訪ねになった時にはお出迎えもしなかったマッカーサーも、お帰りの時には玄関まで丁寧にお見送りをしたという。戦争に負けた方のトップが、勝って乗り込んできたリーダーを感激させたのである。これは陛下の御人徳のなせる技だと思う。このような天皇のいる国は、世界中のどこにもない。

近年、外国人の日本への訪問者が急激に増え、リピーターが多いという。それは、世界中の人々に「日本が好きになった」という気持ちが広まったからだと思う。平成23年の東日本大震災での被災者の姿が世界を感動させたのも、大きな要因であろう。被災地の人々の、困難な状況にも冷静さを失わず、譲り合いながら、誰にも文句を言わず、自分たちの力で立ち上がろうとする美しい姿を世界中の報道機関が絶賛した。

外国人が特に注目したのは、多くの人を助け上げた英雄ではなく、被災地の困難な中で助け合う被災者の姿だった。日本人にとっては至極当たり前のことだったが、彼らにはそれが信じられなかった。

日本が世界に誇れるのは、没個性の精神風土である。日本以外の国々では、対人警戒、人間不信を前提にして社会システムが動いていると考えられる。何度か海外を見てきた私の実感である。その意味で日本は例外的存在である。まず他人を信じる、人を信じるということが普通の生活感覚なのである。

それは、街中に見られる自動販売機の数を見ても分かる。お金がいっぱい詰まった無人の販売機を路上に放置するなど、日本以外の国で見ることはできない。それが外国人にとっては奇跡に見える。そういう無人販売は田舎へ行けば今でも、野菜や果物を道端に置いている。それを盗む人はいなく、箱ごと持ち去る人もいない。それは、人を信頼する日本の精神風土のシンボルといえる。

日本人を分析した「極東遊記」(中央公論社)の著者モラエスは、日本精神の最も顕著な特性は、没個性であると考える。自然と神を同一視する宗教観と、そこから派生する親孝行、天皇崇拝、祖国愛などの特性が存在している、と主張している。没個性は没我を意味し、自分を無にすることであり、最も主体的な行動である信頼が生まれると述べている。

それが、あの特攻の祖国と家族を思う一念からの志願や、人を信じ合う社会の土壌となっている。私が後世に伝えたいのは、日本人が世界に誇れる民族であり、それを培ってきた日本の国を誇り、マハトマ・ガンジーの言葉「Live as if you were to die tomorrow .Learn as if you were to live forever.(明日死ぬかのように生きなさい。永遠に生きるかのように学びなさい。)」のごとく真摯に学び続けて、誇れる主体的な自分であれということである。

『高松木鶏クラブ 多田野 弘顧問談(2019年8月)より』

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