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Vol.217 「自律自助」

2020/04/03

いくら歳をとっても、やれるもんだよ。(多田野 弘)

自律自助とは、自分の信条に従って自らの行動を支配統御することをいう。しかし、私たちが生きていく中で、自分が自分の思うようにならないことが多い。思うようになる自律とはどういうことだろうか。

大抵の人は日常、心の赴くままに行動しているが、その心は生まれたときにはなかった。2、3歳頃から言葉を覚え、言葉と事実を組み合わせることによって理性がつくられ、それが心の大半を占めている。その心に従ってさえおれば社会生活は営めるが、自律自助の生活とはいえない。自分を律する精神はどこに存在するのだろうか。

ヴィクトール・エミール・フランクル教授夫妻はアウシュヴィッツの強制収容所に入れられ、妻は別の収容所に移され死亡した。彼自身は幸運にも虐殺を免れたが、収容所の中で人間が限界ぎりぎりのところに置かれたとき、いかに行動するかを「夜と霧」に記している。皆、死に対する恐怖に脅え、追い立てられて詮方なく死に赴くのが普通であろうと思った。しかし、中には敢然と国歌を高唱しつつ死に赴いた者や、祈りを唱えつつ従容と死についた者がいた。労働に駆り出されるとき自分のパンを病人の枕元にそっと置いて行った者もいた。

これを見てフランクルは、「こういう崇高な意識は人間のどこに宿るのだろうか、また自由とか決断、良心という意識はどこに宿るのか」と考えた。それは本能の宿る意識層の下にある、超越的無意識であるという。つまりフランクルによると、人間の意識は3層に分かれていて、上層がいわゆる理性の宿る意識層、次の層が本能の宿る無意識層、その下が超越的無意識であると述べている。

超越的無意識は無意識であるために気付かれていないが、皆が持ち合わせている。私たち日本人が昔から呼び習わしているあの「魂」というのは、この超越的無意識のことを言い当てていたのではないか。意識を理性とすると、この超越的無意識は「智恵」と呼ばれるものである。理性と本能で形成された自我心は差別をつくり苦悩を生み出すが、超越的無意識に目覚めるならば、初めて平等無差別の立場が生まれ、独立と自由を得て、本当の自分に触れることができるのではないか。

私は青年期に過ごした戦場の体験により、自分を支配し統御できるのは魂以外にないと信じるようになった。自分の死は到底免れぬと知ったとき、祖国と家族の平安のために一命を捧げることは男子の本懐だと悟った。晴れ晴れとした気持ちで死を覚悟できた。そのとき、自分が魂の存在であることを直観した。その直観は自分には魂があるという意味ではなく、魂こそが自分であり、命であり、真の自己であるのを実感したのである。死を覚悟することは心や理性では不可能だが、それを思い悩むことなくやってのけたのは魂であり、その力の偉大さを知った。

魂はなぜそのような大きな力を持っているのだろうか。私たち人間はもともと、大自然の摂理によってこの世に生を与えられている。したがって、大自然の持つ莫大なエネルギーの一部を分与されている。それが私たちの生命であり、その魂が自律心と克己心を生み出しているのである。人はどんなに富や権力を得て世俗的に幸福であっても、何か物足りなさを覚えるはずである。その感覚こそが、フランクルのいう超越的無意識「魂」に目覚めようとしている状態ではないか。

人間が自主・自律に目覚め、変わっていくには何が必要であろうか。自律心を生んだわが社の社員の例がある。社員の自主性を重んじ、タイムレコーダー、出勤簿の廃止と全員月給制の採用という制度の改革の結果、それまでの遅刻も欠勤も奇跡のように止んでしまった。同時に、生産効率が高まっただけでなく、職場の整理・整頓が自発的に行われるようになった。このような自律心はどうして生まれたのだろうか。

信頼され、自分にすべてを委ねられたときの態度が、自主自律を生む母体となるのである。また、自分の行動を賞賛されたとき、感動を受けたとき、確固不抜の信念が持てるとき、孤独が楽しめるとき、自分に克つことができたときなどにも自主自律の意識が湧き上がってくるのではないか。

私が魂に目覚めて自律自助に生きるようになって以来、自分が思った以上のことが現出するようになった。これらは「天は自ら助くる者を助く」の言葉のごとく、魂の生んだ賜物といえるのではないか。

『高松木鶏クラブ 多田野 弘顧問談(2020年1月)より』

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