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Vol.57 構造改革の痛みとは ~十六夜の 月待ちかねて 冷やおろし

2001/09/03

今月の質問者:木村 勇夫さん(関東支店)~たいへんな暑さだった今年の夏、私の暑さ対策はどじょう。どじょう汁を食べて乗り切りました。効きますよ。みなさんもどうぞ。

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先日、参議院選挙が終わりました。小泉首相の唱える「痛みを伴う構造改革」に国民がイエスの回答を出した結果になりましたが、これから訪れる「痛み」とはどんなものなのでしょうか?

また、私達はその痛みに対してどのように対処していけばよろしいのでしょうか?厳しい時代になるのは分かっているのですが、まだ他人事のような感じがしています。

名誉相談役のご意見をお聞かせ下さい。


南の島の戦場は酷暑の夏ばかりだった。今、秋の気配を感じると、四季のあることが身に沁みてありがたい。(多田野 弘)

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あなたの質問は、私にとって大変勉強になった。現在行われている「構造改革」がどのようなものかを知る機会を与えてくれてありがとう。しかし、構造改革についてその全貌を把握しているわけではないので、私のコメントはその一端しか表現できていないことを断っておきたい。

小泉首相の唱える構造改革が何故行われるようになったのかを私なりに考えてみると、世界は先の第二次世界大戦を境にして大きく変わった。原子核の開発によって、もはや大規模戦争の起こる余地がなくなり、原子力は平和利用され巨大なエネルギー源として世界に貢献している。そして、地球上の如何なる国も世界市場の経済の影響なしに存立し得なくなり、日米両国はともにその影響が大きく反映する国となった。それは、日本が戦後半世紀を経ずして世界の経済大国に発展し、急激に成長を遂げたことにもよるが、明治以降に定められた日本の法律や制度、慣行は、旧態依然として、これまで大きく変わっておらず、日本がこれから世界市場に関わっていくには、新時代に適合しないそれらの不備欠陥を是正せざるを得なくなった為と考えられる。今、日本の潜在力を妨げているあらゆる規制や慣行、司法制度を見直し、根本から改めること、また、政府の諸機関にも明確なルールと自己責任を持たせ、自らの潜在能力を発揮できる新しい仕組みを作ることである。

グローバル化した時代の経済成長の源泉は、労働力人口ではなく、「知識、知恵」である。それが技術革新と創造的破壊を通じて、効率性の低い分野から効率性や社会的ニーズの高い成長分野へと、「人と資本」が移動する事によって経済成長を生み出す。「人と資本」の移動は「市場と競争の原理」を通じて進むものであり、市場の障害物や成長を阻むものを取り除き、知恵を出し努力をした者が報われる社会を作るための改革である。

その中に「民間にできることはできるだけ民間に委ねる」という原則があり、特殊法人の見直し、整理統合、廃止、政府主管事業の民営化が行われ、その過程で多くの失業者の発生が見こまれる。要するに、創造的破壊を通じての構造改革には、その過程で激しい反発や抵抗を伴い、改革を通じて消滅する分野や企業が多発することが予想される。その反面、新しい成長産業や商品が登場し、イノベーションと需要の好循環を生み出すことになる。

そこで問題の、改革に伴う「痛み」だが、大部分はこれまで政府の保護政策によって守られていた分野が、その既得権益を失う損失と、そのために行う人員整理によるものと思われる。その他に、銀行、企業等の不良債権処理の過程で多くの整理倒産が発生する事は避けられない。その結果失業者の急増が見込まれ、その痛みは計り知れないものがある。わが社も長引く不況のため、一昨年の春、一部の賃金カットするとともに、早期退職優遇制度による希望退職者を募らざるを得なかった。

現在、失業率5%と最悪の水準となり、企業収益の伸びは鈍化し、設備投資は頭打ち、輸出・生産は引き続き減少している。このような状況の中での構造改革であるが、これまで政府の規制などによって保護されていた既得権の領域が開放され、より効率的な仕組みが生まれると共に、かなり広範囲な層に新しいチャンスが訪れることになるといえる。

これは構造改革によって組織が消滅したり、職を失ってしまう階層には大きな痛手となるが、これまで既得権益を享受していなかったすべての層が、このチャンスを享受する事になる。すなわち自由な新しい挑戦の機会が与えられるのである。しかし、彼らには次の段階で、自分に新しい挑戦者が待ちうけていることも忘れてはならない。

このような市場の競争原理を基本に置くならば、改革は痛みであると同時に成長発展のまたとない機会であるといえる。そこで私は、企業も人間にも改革がなければならない、自らを改革できるもののみが成長発展を許されるのである。だから痛みを恐れる必要は何もない、痛みを被害者意識で考えるのではなく、成長発展の起爆材としてなくてはならない条件なのだと考えたならば、改革は八分どおり成功したといえよう。

企業も人も、痛みを承知で自らを改革できるものが、最後の勝利を獲得できるのは間違いない。たとえどのような痛みにも耐えられるような強い体質に、自らを改革していこうではないか。小泉首相もこのような私たちの意識改革を望まれているに違いない。

航海日誌