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Vol.70 交渉 ~月夜に浮かぶ鰯雲

2002/10/01

今月の質問者:中山 博喜さん(購買部)~タダノに入社して、あっという間に18年がたちました。この間、研修期間を経て配属・異動があり、その都度新しい環境の中、多くの方々とのコミュニケーションを通じて多くのことを学んできたと思います。

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現在、購買部という部署にいる関係上、日常的に取引先各社との交渉を行なっていますが、いかにして双方に利のある結論を導きだすかに日々苦慮しています。

仕事上の交渉ですから、お互いに会社の看板を背負って業務にあたっている訳ですが、つまるところ会社対会社・個人対個人という関係のうえでいかに信頼関係を築くかに行き着くのかなと思っています。

ぜひ、最高顧問の『交渉』にまつわるエピソードと、アドバイスを頂ければ幸いに思います。


早朝のプールの水が冷たくなってきた。満82歳を潮時に止めてもいいのだが、その気になれないのは、意志が弱い証拠だろうか。(多田野 弘)

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あなたが20年近く配属先で学んできたことが、今回の質問の中にも現れていて嬉しく思った。

仕事上、利害の対立する相手との交渉の中で、いかにして双方の利のある結果を創り出すかに苦慮していることは、とりもなおさず、あなたの成長進歩に役だっていることを証明している。なぜかといえば、苦悩の無いところに人間の成長進歩はあり得ないからである。

さて「交渉」にまつわる私のエピソードの中で、まだ記憶に残っているのは、かつて会社が社運を賭すほどの窮地に追い込まれ、その決断を迫られた時のことである。

当社が油圧クレーンを造るようになったのは昭和30年、大手運送会社N社からの提案が発端だった。当時の我々の幼稚な技術で作ったオモチャのようなクレーンが採用され、全国の支店で使用することが決まり、我々は毎月大量の注文に嬉しい悲鳴を上げていた。やがて、全国各地で当社の製品が活躍しているのを見た一般荷役業者から、何の販売活動もしないのに引合いと注文が舞い込んできた。しかし、その数はN社の発注量に比べて微々たるものであったが、一般市場にも潜在需要ありと見て、昭和34年、東京国際見本市の片隅に出品させてもらい、一般荷役業者へのPR活動に入った。

その後、それらの状況を察したN社から、一般市場への販売はN社を通してもらいたい、もし独自に販売するなら、当社への発注は中止するもやむなしとの申し入れがあった。当時専務の私は安定した大量発注先を選ぶか、前途に予想もつかぬ不安定な自主独立路線をとるかの決断に迫られた。思い悩んだ末、後者の道を選び、安定路線を放棄した。しかし、従来の恩義に報いるために、N社にクレーンの製作図面一式と取得していた特許(出願者、康雄常務*)の使用を無償提供することにした。

独立はしたものの大口の発注先を失い、知名度の無い四国の小企業の製品の全国市場への浸透は容易ではなかったが、やがて、社会のニーズに応えられる価値ある製品を提供する企業は、社会は必ず活かさずには置かないことが証明された。それは安易な道を避け、苦難の道を選んだことが幸いしたといえるのかもしれない。

あなたのいう、購買と取引先との関係においても同様に、社会のニーズに応える為に、共に知恵を出し合って、製品の社会的価値を高めることを念頭においてやるならば、そこに共通の利が生まれないはずが無い。なにごとの交渉も、究極の目的は何かを確と掴んでなされるならば、悔いの無い結果が生まれるのではないだろうか。

次に、信頼関係を築くということは大変難しい内容を含んでいて、その要諦を論理的に、誰にでも分かるように述べるのは不可能といってもいいぐらいである。なぜならば、人を信じるということは、理性で考えている間は腹に入らない、目に見えない人の心と心の関係であるからだ。信じるとか愛するということは、理性を超えた領域にあり、知恵であり、感性ともいい、知識の集積の中から得ることができない、人間の深層心理に関わる問題である。理屈抜きの直感の世界であり、人間の本質を問われていることでもある。

人を信じるとはどういうことなのか、信頼関係はどうして生まれるのかについて、私がこれまでの体験を通して感じてきたことは航海日誌vol.4vol.8に述べているが、到底言い尽くせないので、最近他の会合で述べた信頼についての談話の記録を別送するから、補足していただきたい(機会があれば、またここでも述べてみたい。しかし、表現するにはたいへん難しい内容である)。

*康雄常務 現 当社名誉相談役

航海日誌