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Vol.84 「気づき」が人生を変える

2004/01/06

新年明けましておめでとうございます。今回は、新しい一年の始まりにあたり、多田野弘よりエッセイをお届けします。 目標の100号まであと少しとなりました。今年も力いっぱい、魂のこもったメッセージをお送りしたいと思っております。どうぞよろしくお願い申し上げます。【編】


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私の83年の人生は、まさに「気づき」によってつくられたといっても過言ではない。

私は父に似て、生来頑固だったらしい。いったんこうだと思ったら、容易に考えを変えようとしなかったようだ("ようだ"といったのは、自分が頑固だとは少しも意識していなかったからである。)頑固さには、いい面では意思が強固といえるのだが、他からの指摘を素直に認め、採り入れようとしない欠点がある。しかし、様々な経験を通して多くの「気づき」を得たおかげで、私のいい面の頑固さだけが残り、かろうじて満足に値する人生がつくられたように思う。

人間は、自分の愚かさや心の醜さ、傲慢さを知ることによって、大きく成長進歩できるものである。自分のいたらなさを知るには、「気づき」による以外方法は無いが、ホンネではそれを知ることを恐れているので、口で言うほど簡単なことではない。

また、人は誰でも、"プライド"なるものを持っており、常に自分は正しく、他人にとやかく言われる筋合いはないと信じているため、自分を顧みることから遠ざかり、「気づく」ことを難しくしている。

さらに言えば、人から指摘されて「気づく」ことは、理性で受けとめるため、その行動や結果は、合理性の範囲を越えることが無い。つまり、アタマで判断して決めるため、口先では分かりましたと言うが、すぐに忘れてしまうし、長続きしないのだ。

私の言う「気づき」は、アタマで考えて得られるものではなく、合理性を越えた理屈抜きの仕業であり、人の心の底にある"感性"の働きからしか生まれない。自らの感性を働かせ「気づいた」ならば、それは真の自己である「魂」まで届き、自動的に潜在意識に刻み込まれる。いったん腹に入ったものは、必ず実行でき、しかも持続が可能となり、その成長の歩みは死ぬまで続くのだ。それが正に「気づき」による成果なのである。

たいそう立派なことを述べたが、なぜそう言えるのかといえば、「気づき」によって私の人生が変えられたからである。その一つは、戦時中、我が戦闘機隊が老朽貨物船2隻でラバウルからサイパンに向けて出航する前夜、船が沈めばどうやって死ねばいいかを考えあぐねた末、水中深く潜れば簡単に死ねることを思いついた。いよいよの時にはこの手で死のうと決心し、捨て身になった途端、不思議と死への恐怖が消え去り、強い自信と精神の自由が得られたことに気づいた。「身を捨ててこそ、浮かぶ瀬もあれ」とはこのことかと。

今一つは、不思議と命永らえ復員し、故郷の我が家の焼け跡に立った時、とっくに死んでいる筈の自分が、今こうして立っているのが不思議に思えてならなかった。その時、「神」が自分に新しい命を与えてくれたのだ、自分の命はもとより、すべてのものは生きている間の預かり物である・・と「気づく」ことによって目が醒め、心が落ち着いた。したがって、神から預かったこの命に、生命保険をかけていない。

さらには、ある経営者セミナーの研修で、人家を訪問して便所掃除をさせてもらった時のこと。断わられるばかりか、商売の邪魔だと怒鳴られた。情けなくなったが、しばらく経てその場ですぐ謝れなかった自分を恥じるとともに、いかに自分が傲慢であったか、プライドが邪魔していたかに気づかされた。謙虚であれということを、いやというほど思い知らされた。

これらの体験を通して、「気づく」ことが思いもよらぬ素晴らしい結果を生み、人生を大きく変えてくれたことは間違いない。もし、これらの「気づき」がなかったならば、私はつまらない人生を送っていたかもしれない。

仏教の教えでは、真理を「悟る」ということは、根本的な目覚めによるといわれているが、この目覚めこそ「気づく」ことなのではないか。私たちは「悟る」というと、何か今まで自分に持ち合わせていなかった考えを、新しく獲得することのように錯覚しがちだが、そうではなく、今まで考えも及ばなかった新事実に「気づく」ことなのだ。

だから、外側の事象のみにとらわれず、時には自分の内側をみようではないか。「気づく」ことがいっぱい残されている。

航海日誌